大判例

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高松高等裁判所 昭和28年(ネ)233号・昭28年(ネ)358号 判決

一、控訴に基いて原判決主文第一、三項を次のように変更する。

控訴人がした被控訴人の昭和二十五年度所得額更正決定に関し高松国税局長の審査決定により変更された所得額金二十九万三千二百円は、金二十七万九百十八円を超える部分を取消す。

被控訴人その余の請求を棄却する。

二、被控訴人の附帯控訴はこれを棄却する。

三、訴訟費用但し附帯控訴状貼用印紙を除くは、第一、二審を通じこれを十分しその一を控訴人の負担としその余及附帯控訴状貼用印紙の費用は被控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴附帯被控訴代理人は、控訴について原判決主文第一項を取消し被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする旨並附帯控訴について附帯控訴を棄却する旨の判決を求め。被控訴並附帯控訴人は控訴について控訴を棄却する旨並附帯控訴について原判決中被控訴人勝訴の部分を除きその余を取消す、附帯控訴人の昭和二十五年度所得額につきなしたる更正決定について高松国税局長の審査により該決定の一部を取消し所得額を金二十九万三千二百円とした決定におはる金十八万七千二百四十五円を超える部分を取消す訴訟費用は第一、二審共附帯被控訴人の負担とする旨の判決を求めた。

当事者双方事実上の主張は、左記の通り補正した外孰れも原判決摘示の事実と同じであるから茲に該摘示を引用する。

被控訴人(以下単に被控訴人と称する)において昭和二十五年度の売上高は、金一、五六三、八六九円であり仕入高が金一、二五一、〇九六円及必要経費が金一二五、五二八円であるから差引き金一八七、二四五円が所得額である」と述べた。

控訴並附帯被控訴人(以下単に控訴人と称する)において、「被控訴人の昭和二十五年度における利益率三一%は同年度同人方における多数の実際取引中任意に指摘した個々の売買についてその差益を算出しそれを仕入価額で除したものであり被控訴人の実績利益率である。又売買差益(荒利益)から必要経費を差引いた残額即ち純利益が所得税法上の所得額である。被控訴人主張雑損金の内(イ)仕入商品に瑕疵があり又はその荷造、包装の瑕疵による破損した場合は、これが代金減額又は解除返品できることが法律上明らかであるしこれに反する商慣習もない。(ロ)仕入商品が叙上(イ)に基因しないで運送中破損した場合は運送機関にその損害賠償を求め得ること法律上明らかでありこれに反する商慣習はない。仮りに叙上(イ)(ロ)の担害を被控訴人が負担する場合又(ハ)商品保管中に生じた破損又は量り込み等による損害及棚ざらしによる破棄の損害を自ら負担している場合それだけ売上げ高減少し計算上自然所得から除かれる、ので更らにそれを雑損金として所得額計算の利益から控除することは二重計算となる。尤も利益率を基礎として収支計算をしたような場合には実際斯様な損失があれば控除しなければならないであろう。(ニ)売上値引は売上げの記帳に値引きをした額が記載されるのが事実であり常識上もそうしなければならないから被控訴人においても同様でありこれを経費とすることも二重計算となる」と述べた(各証拠省略)。

三、理  由

被控訴人が徳島県美馬郡脇町で金物小売営業をしている者であること、控訴人が被控訴人のした昭和二十五年度所得について法定の時期に法定の方式に従う所得額確定申告を過少と認めそれを金三一二、〇〇〇円と更正したこと並それを不服とする被控訴人の再調査請求を棄却したが適法な審査請求により昭和二十七年四月二日付高松国税局長において、原処分(更正決定)の一部を取消し所得額を金二九三、二〇〇円とする旨変更したことは孰れも当事者間において争ひがない。

控訴人において被控訴人の昭和二十五年度所得額は、売上高計金一、八一七、〇八九円以上であり仕入高が計金一、三八七、〇九〇円以下で経費も計金一〇四、四一〇円以下であるから差引き金三二五、五八九円以上であると主張するところ被控訴人はそれを否認し前記事実摘示の如き売上高から仕入高及経費を差引いた所得額があるに過ぎないと抗争するので審究するに控訴人提出にかかる乙第二号証(前認定被控訴人の昭和二十五年度所得額確定申告書)は成立に争ひがなく、それによると控訴人主張の如き売上高があるかのようであるけれども成立に争ひのない甲第四号証の三の記載内容、又成立に争ひのない甲第七、十三号証と冒頭認定とにより認められる。右乙第二号証の確定申告につきなされた更正決定の一部が再調査を経て審査により取消されて所得額を変更され従つて、該確定申告書記の売上高が信用されなかつたのを推知し得られるのに鑑みると、他に記載の真実性を裏付ける等特別事情の認められるものがない限り右乙第二号証だけをたやすく信用し難いし控訴人の立証に叙上特別事情の認められるものがない又成立に争ひのない乙第一号証の記載と弁論の全趣旨を綜合して認められる、被控訴人方備付帳簿は帳簿に一定の方針がなく又該帳簿における個々の記載の真実性は別とし多数記載漏れ又は翌二十六年度の帳簿に記載したものがあり従つて総売上高についての記載は不正確であること、それ故被控訴人自身においてさえ該帳簿(参照甲第二十一号証)記載の総売上高が計金一、四一二、二九〇円となるに拘らず売上高を金一、五六三、八六九円と主張している事実に徴し、被控訴人提出の甲第二十一号証の記載を売上高を証する資料としては信用できない、他に売上高が控訴人主張の額であることを認め得られる証拠はない。しかし所得税法によれば所得額等の確定申告における額が政府の調査したところと異なるときは、政府は該調査(により得たる資料)によりこれを更正できるのである、このことは再調査、審査においても同様であること言を俟たない、ところで成立に争ひのない乙第三号証の一乃至五甲第四号証の一、二、三及七原審証人井上清澄当審証人勝浦久夫の各証言を綜合すると被控訴人のした冒頭認定の審査請求について高松国税局長の命により所部の係員が被控訴人に就いて昭和二十五年度所得調査のため蒐集したしかも被控訴人の承認する諸資料及被控訴人の供述により被控訴人は、冒頭認定の営業は大部分現金売りであり該営業以外に収入がない、被控訴人方における多数の商品仕入れ及売上げの中から任意に各商品別に各月毎に指摘した個宛の取引についての仕入価と売上価並商品別の取扱割合(乙第三号証の一乃至五並第四号証参照)を確認し又売上品の値引状況その値引率が一・六%となること(甲第四号証の七参照)をも確知し得られたのを認めることができる、そこで右確認の仕入価と売上価とにより商品別の平均売買差益率及それに商品別取扱割合を乗じたものを綜合した全商品の売買平均差益率が三一、四九%であることは計数上明らかであるが被控訴人の売上げ中には幾分掛売りがありその代金回収に際し値引きをすることもあろうからそれを考慮し叙上認定の値引率その他後記被控訴人主張の雑損金等を勘案すれば結局全商品の平均差益率は三〇%とするをもつて妥当とする、この認定に抵触するかの如き乙第五号証甲第二十二号証の一、二原審証人金川武、蔭山勇当審証人金川満太郎、広瀬敬之、新居勝の各証言はそれ自体により明らかなように本件事実に即しないものであるから右認定の妨げとならないしかして成立に争ひのない甲第四号証の四及五によれば被控訴人の昭和二十五年度における商品仕入高は金一、二五一、〇九六円であつたことが認められるので右認定の差益率三〇%の計算による利益金三七五、三二八円を加算した金一、六二六、四二四円をもつて叙上調査により認められる被控訴人の同年度売上高と做すべきである(このことは前記勝浦証人の証言により調査の結果が記載されていると云う第六号証における被控訴人の昭和二十五年度売上高金一、六九八、二〇〇円とあることに略近い額であり相当と思料される)。

次ぎに本件弁論の全趣旨によれば被控訴人の主張する経費金一二五、五二八円は控訴人においてこれを争う雑損金二一、一二八円とこれを認める家賃金四、六〇〇円、電燈料金一、九三一円、交際費金二、五二〇円、広告宣伝費金二、八二九円、雑費金二、四一〇円、上記以外の経費金九〇、一一〇円計金一〇四、四〇〇円とを併せたものであることが明らかであるから叙上雑損金を除き家賃以下その余のものが経費であることは、当事者の間に争ひがなく、被控訴人援用の前示証人金川武、蔭山勇の証言によれば金物小売商においては商品仕入れの際又は陳列中に破損したり或ひは売却に際り量り込み等の所謂雑損金と称するものが約二%位生ずるを普通とするのを窺はれないではないが被控訴人の全立証によるも、被控訴人方に斯る雑損金の具体的に生じていたことを窺はれるものがない、却つて前示証人井上清澄の証言によれば被控訴人は雑損金として総仕入額の約二パーセントを計上していたに過ぎず各品目別に計算されていなかつたから否認したのであることを認められ斯様な雑損金のあることが具体的に証明できなかつたのを窺知できるから雑損金があつたとの主張は採用できない、ばかりでなく仕入商品についての主張の如き事由による損失は結局総計算に際し仕入れは計上されるけれども在庫品並売上として現はれないから自然に損失として所得額から除かれる筋合となるのであるし利益率を基礎として総計算を樹てた本件においては前認定のように斯る損失をも含めて勘案し利益率を定めもつて損失を除いているのである、然るに斯る損失を経費として所得額から控除を求めるが如きは結局重複控除となり失当である。

そうすると、被控訴人の昭和二十五年度所得額は前記認定の売上高から仕入高と経費金一〇四、四一〇円とを差引いた額即ち金二七〇、九一八円であるから冒頭認定の如く控訴人のした被控訴人に対しての所得額更正決定は、国税局長の審査決定により一部取消され金二九三、二〇〇円とした(従つてその範囲では右更正決定が是認されたが)猶右認定の所得額を超える部分につき違法があると云うべきであるしかして行政処分取消の訴は、当該処分をした行政庁を被告としてこれをしなければならないのであるが右のように上級庁たる国税局長の審査決定によりその下級庁である控訴人のした更正決定の一部を取消したが大部分を是認したようなものにあつてはその是認された範囲については原処分庁である控訴人をもつて処分(更正決定)をした行政庁と解しても妨げないものというべく被控訴人の本訴取消請求も右是認された範囲に係るものでもあるからその請求中叙上違法な部分に限り認容すべきでありその余は失当なので棄却するものとする。それ故控訴人の控訴は一部理由があるので右と趣旨を異にする原判決を変更すべきであるけれども被控訴人の附帯控訴は理由がないからこれを棄却するものとし民事訴訟法第九十六条第九十二条第八十九条に則り訴訟費用の負担を定め主文の通り判決する。

(裁判官 前田寛 太田元 森本正)

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